研究課題
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核酸およびレドックス調節パスウェイを標的とする抗卜リパノソーマ薬の開発

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代表機関:東京大学大学院医学系研究科
代表研究者:北  潔

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寄生虫であるトリパノソーマ科の原虫が引き起こす致死的疾患、トリパノソーマ症。WHOにより、制圧すべき感染症の一つに挙げられています。アメリカ型の原虫の場合はシャーガス病、アフリカ型の原虫の場合は睡眠病となり、毎年数十万人以上もの新たな患者が発生しています。家畜にも感染し、年間数十万頭もの牛が死んでいるのです。

私たちは、これまでの研究で、トリパノソーマ症を制圧する創薬開発に有望なターゲットを発見しました。その一つは、原虫の核酸(DNAやRNA)の材料を生合成する反応経路にかかわる酵素群です。もう一つは、原虫細胞の酸化・還元状態を調節する反応経路(レドックス制御)にかかわる酵素群です。実はトリパノソーマ原虫では、この両反応経路がつながっており、これらの酵素群は原虫の生存に大きな影響をもっているのです。

薬を開発する上で重要な要件は、原虫には効果を及ぼすが、人や家畜には悪影響がないことです。例えば、DHOD(ジヒドロオロト酸脱水素酵素)は、トリパノソーマ原虫の核酸材料(ピリミジン)を生合成する経路の第4番目の酵素で、この酵素の有無は、原虫の生死を左右することがわかっています。ところが、DHODは哺乳類にも重要な酵素です。そこで、原虫の酵素群だけを阻害する方法を見つけることが必要なのですが、幸い、DHOD遺伝子は他のいくつかの酵素遺伝子と協力して一つの遺伝子のように振る舞うので、それを利用することができそうです。

また、アフリカ型原虫は、宿主(感染した相手)の血中で、シアン耐性型の特殊な酵素TAOを使用しますが、この酵素は哺乳類の細胞には含まれません。そして、糸状菌が産生する物質(アスコフラノン)が、このTAOを阻害するとわかりました。

このように、原虫の核酸生合成経路とレドックス制御経路に関与する酵素群の研究から、原虫を特異的に死滅させられる創薬が開発できる可能性が非常に高く、すでに国際的な開発競争が始まっています。私たちは、これら酵素群の精密な立体構造の解析を進め、1日でも早く、抗トリパノソーマ薬の分子設計に結びつけたいと思っています。さらに、こうして得られた知見は、他の寄生虫の創薬研究にも活かせるとの期待も高いのです。

ピリミジン生合成とレドックス制御の反応経路
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