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多糖の輸送・分解に関わる細菌由来超分子の構造生物学とその食品・環境分野への応用

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代表機関:京都大学大学院農学研究科
代表研究者:橋本 渉

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自然界において、細菌は集まって街を形成し、その中で情報をやり取りして暮らしています。こうした細菌のコミュニティは、細菌自体が分泌するネバネバした物質で囲まれています。この物質を「バイオフィルム」といいます。バイオフィルムはあらゆるものに付着して存在します。身近な例を挙げれば、配水管のぬめりや歯の表面に付く歯垢が、実はバイオフィルムなのです。ときには細菌が体の細胞や食べ物にくっつくのを助けて、感染や腐食を引き起こしたりします。

多くの人が経験したことがあると思いますが、配水管のぬめりや歯垢はなかなか取れません。バイオフィルムは殺菌や洗浄に耐える頑固な膜なのです。こうしたことから、バイオフィルムを分解・除去する方法の開発は、医療・食品・環境の分野でとても期待されています。一方、バイオフィルムは粘性を加える添加物として食品の分野で利用されており、バイオフィルムを改良して新しい食品素材をつくる研究も活発に行われています。

バイオフィルムの主成分は多糖(糖がたくさんつながったもの)です。私たちは巨大な多糖を分解する「スフィンゴモナス属細菌A1株」という細菌に着目しました。この細菌は、自分の体の表面に大きな穴を開けて、巨大分子であるアルギン酸(多糖の一種)を丸呑みし、体内で細かく刻んで吸収するという非常に巧妙なしくみをもっています。これを「超チャネル」といいます。超チャネルにおける多糖の輸送や分解のメカニズムは、バイオフィルムの除去や分解、性質改良のための大きなヒントになるはずです。

超チャネルではさまざまなタンパク質が働いています。私たちは超チャネルの入り口で体外のアルギン酸を捕らえる「フラジェリンホモログ」というタンパク質や、細胞膜を通ってアルギン酸を細胞内に運ぶ「ABCインポーター」というタンパク質の構造解析に取り組んできました。解析の結果をもとにタンパク質の構造と機能の関係を明らかにし、細菌の超チャネルを利用した感染症治療や腐食の防止に役立てたいと考えています。

また、このスフィンゴモナス属細菌やバチルス属細菌のなかではアルギン酸をはじめとするさまざまな多糖の分解酵素がはたらいています。これらについてはX線構造解析を終えており、さらに精密な構造解析を進めます。これらのなかには、重篤な呼吸器疾患を引き起こす緑膿菌のバイオフィルムを除去する酵素もあり、治療薬をめざして分子の設計を進めています。医療への応用が現実味を帯びてきました。

多糖の輸送・分解に関わる細菌由来超分子の構造生物学とその食品・環境分野への応用
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