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齧歯類ペプチド性フェロモンファミリーの構造と機能の解明:ネズミの環境問題の解決に向けて

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代表機関:熊本大学大学院医学薬学研究部
代表研究者:寺沢宏明

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フェロモンは、生物同士がコミュニケーションをとるための化学物質です。具体的には、昆虫や哺乳動物のオスがメスを引き寄せる物質や、逆にメスがオスを引き寄せる物質などが知られています。フェロモンは、生物が子孫を残して種を保存する上で重要なはたらきをしています。

私たちは、齧歯類(ネズミやラット)のフェロモンの研究に取り組んできました。齧歯類は鼻腔にある鋤鼻(じ ょび)器官というところでフェロモンを感知します。フェロモンの候補として、低分子有機化合物やペプチド性物質(小さなタンパク質)が尿から見つかっていましたが、どちらも実際に鋤鼻器官で感知されているという証拠はありませんでした。

当課題の分担研究者である東京大学大学院新領域創成科学研究科の東原和成准教授らのグループは、マウスの涙腺から、オスだけがつくり、メスの鋤鼻器官の細胞に作用するフェロモン活性物質を発見しました。これはペプチド性物質であり、ESP1と名づけられました。この物質をコードする遺伝子には、よく似たものが数十種類もありました。つまり、ESP1の仲間は数十種類もあるわけです。そこで、これらをまとめてESPファミリーと呼ぶことにしました。その中には、メスだけがつくるものもありました。

当課題では、このESPファミリーのさらなる解明を進めます。ESPファミリーは、マウスだけでなく、ラットや野生のドブネズミなどもつくります。そして、鋤鼻器官の細胞にあるそれぞれの受容体に結合し、フェロモン活性を発揮します。このため、私たちはまず、さまざまな齧歯類のESPファミリーがどの受容体と対応するのかを調べます。また、ESPファミリーの立体構造を解析し、受容体との接合面がどのようになっているのかも明らかにしていきます。さらに、ESPファミリー自身と、受容体を活性化させる物質(アゴニスト)や活性を抑える物質(アンタゴニスト)を用いて、フェロモンの効果や行動への影響を検証していく予定です。

現在、日本の都市部ではクマネズミやドブネズミが増加し、衛生環境の悪化が懸念されています。また、海外の穀倉地帯でもしばしばネズミの大発生が起こり、数十億円規模の被害が生じています。私たちは上述の研究を通して、フェロモンを用いて齧歯類の個体数をコントロールする方法を開発し、このような問題の解決に役立てたいと考えています。ESPファミリーは、実際に作用するときのかたちを突き止めるのが難しいタンパク質ですが、構造解析と機能解析を組み合わせて、課題に取り組んでいきます。

齧歯類ペプチド性フェロモンファミリーの構造と機能の解明:ネズミの環境問題の解決に向けて
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