研究課題
技術開発研究課題は右カラムarrow

乾燥・高温ストレス耐性作物の開発に役立つ転写制御タンパク質の構造・機能解析

TP Atlas
TP Atlasはこちら

代表機関:東京大学大学院農学生命科学研究科
代表研究者:田之倉 優

2010年版パンフレット(背景と成果)の該当ページはこちら

人口の増加で食糧需要が急増する一方、地球温暖化や異常気象によって農業を取り巻く環境が変化しており、作物生産の将来が心配されています。安定した食糧供給のためには、環境が悪くなっても収穫できる作物を開発しておく必要があります。

乾燥や高温にも耐えられる作物づくりをめざして、植物が本来もっている環境対応能力が生まれるしくみを解明し、それを活用する研究が進んでいます。植物は、乾燥した環境では葉から水分が蒸散しないように気孔を閉じ、塩分が濃い環境では耐塩性を高めるなどして環境に適応しているのです。

当課題の分担研究者である東京大学大学院農学生命科学研究科の篠崎和子教授のグループは、温度、湿度、日照などの条件を人工的に変えられるバイオトロンの中でモデル植物のシロイヌナズナを育て、植物が乾燥や高温に耐えるしくみを分子レベルで明らかにしてきました。乾燥や高温に耐えるためにたくさんの耐性遺伝子が発現し、それらはさらに転写因子によってコントロールされていることがわかってきました。

その中でも特に重要な転写因子が2種類あります。それが「AREB(エーレブ)群」と「DREB2(ドレブ2)群」です。「ターゲットタンパク研究」では、それらのうちでもいちばん重要なAREB1とDREB2Aを取り上げることにしました。どちらも複雑な構造をもつタンパク質で、田之倉グループはこれらを大量発現・精製し、NMRやX線結晶解析で立体構造を決める計画です。

水が不足したり塩分濃度が高くなったりすると、植物ホルモンのアブシジン酸 (ABA) が合成され、これがプロテインキナーゼというリン酸化酵素を活性化します。するとふだんははたらいていないAREB1がリン酸化されて活性型になり、遺伝子の発現を誘導します。こうして植物は乾燥した環境に耐える能力をもつようになるのです。

一方、DREB2Aは乾燥や塩分のほか高温にも耐えられる性質を与える遺伝子を誘導する転写因子です。植物の中で合成されてもふだんはすぐに分解されてしまいますが、高温や乾燥条件ではDREB2Aの構造が変化して分解されずにはたらくようになると考えられています。今回の研究では、この転写因子の活性型と非活性型の構造や機能を詳しく調べ、将来人間の手で必要な時に転写因子を活性化できるようにして、乾燥や高温に耐える作物を開発したいと考えています。実現すれば、植物が育ちにくい地域の緑化にも役に立つでしょう。

シロイヌナズナが環境ストレスに対応するネットワーク
シロイヌナズナが環境ストレスに対応するネットワーク
ページトップへ