研究課題
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新規膜電位センサー蛋白群の構造と機能の解明

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代表機関:大阪大学大学院医学系研究科
代表研究者:岡村康司

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細胞膜は、細胞の内と外を厳重に仕切っているようですが、実は物質の出入りを可能とする特殊なしくみを備えています。その一つが、イオン専用の通り道「電位依存性イオンチャネル」です。その実体は細胞膜に存在するタンパク質で、「電位センサー」部位と「小孔」部位からなっています。電位センサーが細胞内外の電位差(膜電位)を感知して、必要に応じて小孔が開閉されるのです。すると、細胞内外間で、イオンの移動が生じるのです。

イオンの移動が起こると、電荷の分布状態が変わります。神経細胞や筋細胞では、こうしたイオンの移動により活動電位などが発生し、細胞から細胞へ電気信号の伝達が起こります。このことは昔からよく知られています。

ところが私たちは、2005年と2006年と続けて二つ、いわば変わり者の「電位依存性タンパク質」を見つけました。電位センサー部位はあるのですが、小孔部位のないタンパク質です。このようなタイプは、それまでまったく知られていませんでした。

一つはVSPと呼ばれるタイプで、小孔のかわりに、酵素のはたらきをする部位をもつものです。電位センサーが感知した膜電位に応じてその酵素が活性化され、細胞内に化学的な情報が伝達されるのです。この酵素は、リン脂質を分解する脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)で、がんを抑制するはたらきをもつPTENという酵素とよく似ていることがわかりました。

もう一つはVSOPと命名したタンパク質で、電位センサー部位のみが単独に存在するタイプです。驚くべきことに、小孔がないにもかかわらず、プロトン(水素イオン)に通り道を提供していることが判明したのです。これまでプロトンを通すイオンチャネル(プロトンチャネル)の実体は、よくわかっていませんでした。このタンパク質は、神経系や免疫系の細胞に存在しており、活性酸素やpHの制御と関連しているようです。

私たちは、これら両タンパク質を結晶化し、その立体構造を解析することで、そのはたらくしくみを詳細に知ろうとしています。それがわかってくれば、さまざまな細胞が膜電位の変化をどのように利用しているのかが、詳しくわかるようになってくるでしょう。神経や筋肉のはたらきはもちろん、がんや免疫反応のしくみについての理解も深まるので、将来、これらのしくみに関連する疾患の治療薬の開発にもつながっていくと期待されます。

電位センサーをもつタンパク質の比較。

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