研究課題
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細菌のタンパク質分泌装置と輸送基質タンパク質群の構造・機能解析

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代表機関:大阪大学大学院生命機能研究科
代表研究者:今田勝巳

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細菌の中には、生物に感染して病気を引き起こすものがたくさんあります。例えば、赤痢菌やサルモネラ菌は、ヒトの腸内の細胞に感染し、下痢や発熱を引き起こします。こうした病原性細菌は、狙った細胞の内部を自分が入り込みやすい環境に変えてから侵入します。そのために、病原性細菌はエフェクターという一群のタンパク質をつくり、相手の細胞に送り込んで、その生理機能をコントロールします。病原性細菌の表面には、エフェクタータンパク質を細胞に送り込むための分泌装置があります。

分泌装置には、III型とIV型の2種類が知られています。どちらも多種類のタンパク質が集まってできている複合体です。III型分泌装置はサルモネラ菌などで見られるもので、当課題の分担研究者である大阪大学大学院生命機能研究科の久堀智子特任助教らが世界で初めて精製し、電子顕微鏡で観察した結果、べん毛の付け根とほぼ同じ構造体であることが明らかになりました(べん毛は、細菌が泳ぐときに使う長いしっぽのような毛で、船のスクリューのように回転します)。一方、IV型はレジオネラ菌などに見られますが、その構造はまだはっきりしていません。

どちらの分泌装置も、病原性細菌の成分の中からエフェクタータンパク質だけを選び出して、絶妙なタイミングで、必要な量だけ細胞に送り込むというすぐれものです。私たちは、III型とIV型の分泌装置がエフェクタータンパク質をどう認識し輸送しているのか、また、輸送のためのエネルギーはどのように供給されているのかを明らかにしたいと思っています。

しかし、分泌装置を構成するタンパク質は離合集散を繰り返しています。このような複合体を、ちゃんと機能するかたちで結晶化させることはなかなかたいへんです。そこで、構造解析する試料のデザインが必要になります。例えば、結晶化しにくい部分を除去したタンパク質をつくる、相互作用が強くなった変異タンパク質を探索・作成し、部分複合体を得るなどの手法を使って研究を進めています。こうすることで、構造解析に適した試料を調製することができ、いくつかのタンパク質の構造が明らかになりつつあります。

研究の成果として分泌装置の働きを抑える方法を見つけることができれば、病原性細菌は感染できなくなり病気を予防できます。この治療法は、抗生物質と違い細菌を死滅させるわけではないので、耐性菌ができにくいという利点があり、これまでにない感染症治療薬の開発につながると期待されています。

細菌のタンパク質分泌装置と輸送基質タンパク質群の構造・機能解析
細菌のタンパク質分泌装置と輸送基質タンパク質群の構造・機能解析
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